はじめに
鍼灸は東洋医学の代表ともいえるすぐれた医療です。このコーナーではその不思議な世界について、さまざまな角度から興味深い話題を盛り込みながら考えていきたいと思います。
ご存知の方も多いと思いますが、鍼灸にはいろいろな手法があります。針の刺し方やツボの使い方、「経絡(けいらく)」と呼ばれる「気のエネルギーの流れる路」の用い方など、さまざまな流派もあります。それぞれの流派が一生かかって技を磨いていくのですから、それらを一つ一つ解説することはこのコーナーでは無理ですが、もし知りたいと思われるのでしたら、その人の書いた本やホームページなどをご覧になられた方がいいでしょう。
ここでは私が鍼灸師として研究してきたことを中心に、そして学説の解説といったものではなく、現場から発見した興味深い話などを盛り込んで、堅苦しくならないように、できるだけ楽しい読み物になるようにしていきたいと思います。
皆さまの雑学を豊かにし、鍼灸がより身近になっていただければ幸いです。
なぜ針をさすと筋肉が柔らかくなるのか
細胞の中はゲル状になっていて、そこに針が進入してくるとふっと力を抜いたように柔らかくなることがわかっています。おそらく硬いままだと他の部分まで傷をつけてしまうので、柔らかくなることによって自らを守ろうとしているのでしょう。一種の自己防衛作用と言っていいでしょう。
肩こりについて
肩こりは筋肉を使いすぎて起こる場合もありますし、力仕事は何もしていないのに起こることもあります。筋肉を使いすぎて起こるものは簡単に治りますが、それ以外の原因による肩こりは、なかなか治らないものもあります。
これはストレスが蓄積されたことによって、真相の筋肉が硬くなってしまったものです。また肉体的ストレスによるものの場合は比較的早く治りますが、精神的ストレスによる場合は、自律神経の中の交感神経が緊張しっぱなしになるため、力を入れていないのに、筋肉が硬くなったままになることがあります。
これは治るまでに時間がかかります。
なぜ針をさすと痛みが楽になるのか
この生理的メカニズムについてはさまざまな研究がなされていますが、専門的な話になると長くなって難しくなりますので、簡単に言いますと針をさした刺激が脳に伝わって、鎮痛作用のあるホルモンが分泌されたり、自律神経系の働きに鎮痛効果が加わることなどが、実験結果からわかっています。
私の治療院でも、針をすることによって1、2回で長い間の痛みが嘘のように消えたというケースはたくさんあります。
まことに中国人はすばらしい治療法をあみだしてくれたと、感嘆せずにはいられません。
当院の針治療について
当院は鍼灸・整体・光線療法を併用して治療を行っています。
ほとんどの場合、うつ伏せで首の付け根の数箇所や頭のてっぺんにあるツボ、そして下腕にある数箇所のツボに針をして、鎮痛効果を出し、自律神経系を整えながら足から肩にかけて整体治療をします。これによって人体に対して、物理的に悪いところに直接「手当て」を行い、そのあと針を抜いて仰向けと横向けで整体治療をしてから、背中にある10箇所程度の重要なツボに針をしながら光線治療を併用します。
たいていの症状ならばこの1回でだいぶ楽になります。
その後は様子を見ながら2回目以降の治療を行っていきます。
当院のこの針治療を一言で申しますと、「虚したところに行う補の針」と言えるでしょう。
「虚したところ」とは、わかりやすく申しますと「気」すなわち生命エネルギーが弱っているところを癒すポイントという意味です。
そこに「補の針」すなわち「気」と生命エネルギーを補うための針をするのです。慢性症状の方はたいてい生命エネルギーが弱っています。
そして弱っていることが身体の表面に現れる反応点が「虚しているところ」です。具体的には指で皮膚をなぞるとスッと軽くへこむような点が感じられます。そうするとそこに対応して、身体のどこかが飛び出しているところがあり、これが症状だという考え方です。飛び出したところは見えないくらいにわずかなものですが、これが身体の表面か、もしくは身体の内部のどこかに生じていると考えます。補の針を行うことで、虚したところの凹みが治ると、対応する凸のところもへこんで、それによって現在の症状が消えていくという治療観です。
これを読んでおられる方にとっては非科学的に見えるかもしれませんが、これは「治療方針を立てるための考え方」で、「気」の考え方と同じく、目に見えないものの存在を前提にした治療観で、東洋医学の特徴なのです。

