1.初めに ―心に残る患者さまの思い出―
その方が初めて治療室に入ってきた時でした。
長い髪をたらした姿で、力なくじっと私を見つめる彼女を見て、これは重症だと直感しました。大変失礼な言い方を許していただければ、その時の彼女は幽霊のような表情と歩き方でした。
彼女は半年前に自転車に乗っていたところを車にはねられ、頚椎ねんざと全身打撲で座っていても腰が痛み、頭痛のため朝まで寝られない時があるとの事でした。鬱症状にもなっていました。腰や首、そして頭とどこを押しても背中に痛みが走るとの事でした。
全身のあちことに圧痛があるものの、筋肉には硬結はないので、事故によって軟部組織が損傷して神経に痛みが出ていると思われました。
整体治療はできないので横臥位で光線治療をしながら、痛みの多い右半身に針をしていきました。3回目から少し楽になってきたとの事でした。
横になっている彼女の目はじっと虚空を見つめたまま動きませんでした。
彼女は死にたいと思うことがあると言いました。
私は治療をしながらいろいろなことを話しました。
なぜこの道に入ったか、私も死にたいと思ったことが何度もあることなど、ベッドのそばに椅子を持ってきて腰掛けながら話しました。
彼女は大変知的な方で、人生や宗教などの深い話題になることもしばしばでした。
思い切って私はキリスト教を信仰していることを話すと、彼女は親戚にクリスチャンの人がいるとの事でした。それから私はキリスト教の話をしたり、信仰書を渡したりしながら、何とか彼女が回復するように祈りました。
それから少しずつ痛みが和らぎ、7回目の治療から毎日散歩できるようになったとの事でした。そして10回目でとうとう痛みが全く消えて、走っても大丈夫になり全快しました。
その時初めて彼女は、ここに来た時から「この先生ならきっと私を治してくれる」と思ったと話してくれました。
それから3ヶ月ほどして、「借りていた本を返しに来ました」と言って、彼女は元気な顔を見せに来られました。
正月に主人とヨーロッパ旅行に行ってきたとの事で、何枚かの写真を見せてくれました。
髪の毛を短くしてパーマをかけた彼女は、以前とは全く違って可愛らしくなり、表情もとてもすてきになっていました。
彼女との出会いは、そして彼女が治ってくれたことは、私の治療師としての人生にどれほど大きな、すばらしい宝物になってくれたことでしょう。
そして彼女の笑顔は、今でも私に深い喜びと幸せを与えてくれています。
本当に感謝しています。
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